あるはみ出し者(ジョーカー)達の日常verソウサク 2-5話

「いいわ。行かせななさい、柚季」

葵が突き放すように言った。

「……ッ! でも、葵!」

「私達も、そして貴方達も、この時間に学校に居たのが知られたら処分は免れないわ。だから、表沙汰にはできない。……でも。噂は広まるかもしれないわね? 誰が、こんな真似をしたのか、その噂はね?」

「アンタが、広げるんでしょうがッ!」

ギリリッ、と唇を噛み締めて鋭く睨みつけ、憎悪を吐き出す七瀬さん。
葵は素知らぬ顔で微笑んでいた。

(私の動画ファイルのついた真実と、貴女の言い訳。どちらが説得力あるかしらね?)

言外でそう語る葵に、しばし二人は視線をぶつけ合っていたが、やがて七瀬さんが折れたように肩の力を抜いた。
そして、無言で倒れた机を元の位置に戻し始める。
それを見て、残りの三人も倒れた椅子や机を直し始めた。
僕達も見ているだけなのは手持ち無沙汰だったので、一緒になって教室を綺麗にしていった。
八人も居れば三分も掛からずに元へ戻り、教室は普段と同じ乱れのない姿を取り戻していた。

「これで文句ないでしょ!? じゃ、もう行くから!」

今度こそ七瀬さんが教室の扉を開けて、飛び出すような勢いで廊下へ出て行った。

「だから待てって!」

江藤君が一声叫んで追いかけ、高槻君、宮月さんの二人も慌ててその後を追う。
四人が居なくなると、深夜の静寂を取り戻したかのように、教室から音が消え去った。
僕はその静寂を破るように、誰ともなしに問い掛けた。

「……さっきのってさ。一体、なんだったんだろうね? あの四人の様子から、僕達を怖がらせる仕込み、って感じじゃあなかったけど」

ふと、ゴミ箱へ視線を向ける。
そこには『ひとりもにがさない』と幾重にも綴られた紙片が丸めて捨てられている。

「……さぁ、な。それより、こんなとこに残ってても仕方ねえし、もう帰ろうぜ。明日、つうか今日か。今日も学校あるんだしよ」

欠伸を噛み殺した眠そうな表情で、悠が言った。
ぴん、と張っていた緊張感が緩むようなおどけた仕草に、自然と頬が緩む。

「そうだね! 今からなら急いで帰れば一眠りできるし、さっさと帰ろうか!」

「そうね。私も少し、眠いわ」

「私もだぞ!」

思わず四人、顔を見合わせてしまう。
そしてやっぱり自然と笑顔が零れた。
……不完全燃焼ではあるけど。
葵の左足首にあった手形の痣も取れたし、一応は一件落着かな、と考えて僕達は教室を後にした。
そして行きと同じく、警備員さんの気配を五感を研ぎ澄まして探りながら、今いる北校舎の二階から三階に上がり、渡り廊下を通って本校舎へ移動した。
……しっかし、危なかったな。
あれだけ教室で大騒ぎしたんだ、警備員さんに見つかってもおかしくなかった。
まあ、葵と悠の事だから警備員さんの巡回時間や経路とかも入念に下調べして、比較的安全だと判断したんだろうけど。
それでも、それは絶対じゃない。
僕達ジョーカー部の場合、積み重なった勇名(学校側にとっては悪名だろうけど)のせいで、同じ事をしても処罰が一般生徒より遥かに重いもんなぁ……。
聞いて驚き、なんと放課後にジョーカー部へ行かず、顧問の許可なく帰宅しようものならそれだけで一週間の停学なのである。
……何それ、横暴すぎるっ!
ここは本当に現代日本なのっ? 柚季、絶望しちゃう!
とか詮なき事をつらつら考えながら、本校舎の三階から二階へ下り、そのまま一階まで下りようとして――……突然、世界がぐるぐると、くるくるくるくるくるくるくるクルクルクルクル狂狂と、狂ったように廻り出して、僕の意識がブヅンッと暗転した。

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