あるはみ出し者(ジョーカー)達の日常verソウサク 3-1話

七瀬愛梨は激しく苛立ちながら、深夜の廊下を早足に歩いていた。
後ろからは、三つの足音が慌てたように付いてくる。
その足音を意識の片隅で聞くとはなしに聞いて、七瀬愛梨は知らない内に、思考に没頭していた。
凍川葵のやつッ……。
調子に乗りやがって!
悔しさから自然と下唇を強く噛み締め、ほんの微かに唇が切れて口の中に血の味が広がり……七瀬愛梨は慌てて、力を抜いた。
七瀬愛梨にとって凍川葵は、小学校からの腐れ縁だった。
もっとも、まともに話した事なんて、片手の指でも余るほどだけど。
小学生の当時から、いけ好かないやつだった。
己の優秀さを鼻にかけて、人を見下す……否、見下す価値すらないとばかりに無関心だった。
その癖、見た目の良さから男子に人気があり、いつもチヤホヤされていた。
凍川葵はそれすら塵芥ほどの興味も見いだせないとばかりに、眉一つ動かさない無関心ぶりだったが。
当然、小学生女子のコミュニティからは疎まれ、弾かれ、疎外されていた。
それだけでは収まらず、それなりに陰惨な虐めすらあった。
靴を隠されたり、水をぶっかけられたり……だがそれすらも、凍川葵は意にも介さないとばかりに超然としていた。
私は……七瀬愛梨は。
何者にも揺るがない確固たる『強さ』を持った凍川葵が、苛ついて、ムカついて――そして妬ましかったのだ。
そんな時だ。
神城柚季が、私達の通っていた小学校に転校してきたのは。
そして神城柚季が凍川葵のクラスに転校してきて一週間と経たず、凍川葵の虐めは未来永劫なくなった。
詳しくは省くが、神城柚季が、己の立場を迷いなく犠牲とした――その引き換えとして、凍川葵の虐めはなくなったのだ。
その結果、神城柚季は転校してきたばかりで、直ぐにまた他所の小学校へ転校する羽目となったのだが――それすらも凍川葵を守る為、ひいては凍川葵の類稀なる強運に映ってしまい、苛つきが倍増したのを昨日の事のように覚えている。
せめてその後の中学や高校が違ったのなら、凍川葵との縁も切れて、嫌な思い出も記憶の底に埋没し、薄れて消え去っただろう。
しかしなんの因果か、中学では件の神城柚季まで引き連れて私の前に姿を見せたのだ。

神経が逆撫でされる思いだった。
……当然、凍川葵にそんな意図は欠片もなかっただろうが。
ただ、偏差値の高い中学を選んだ、その程度の認識だろう。
そう意識の片隅では理解していても、感情が凍川葵という存在を認めず、許せなかった。
目の前にいるだけで、その美しさに、優秀さに、揺らぎのない強さに嫉妬し、ムカついて、追いつこうと追い越そうと死に物狂いで努力しても叶わず――そして、劣等感や憎悪すら感じている醜い自分に更なる苛立ちが募った。
悪循環。
悪循環だ。
そう理解していても止められず、いつしか「死ねばいいのに」とすら自然に考えるようになっていた。
……そんな時。
そんな時、だ。
校内で七不思議が爆発的に流行りだしたのは。
七不思議の中に『サカキさんの呪い』を見つけ、私と同じように凍川葵に鬱屈した不満を持っており、尚且つ、こんな下らない儀式に付き合う連中を探して、手慰みと知りつつも、呪いの儀式を行おうと思ったのは。
そして、それすら邪魔された。
他ならぬ、神城柚季と凍川葵に。
その二人に邪魔されたという現実が、七瀬愛梨にとって何よりも耐え難く、そして屈辱ですらあった。
…………でも、と。

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