あるはみ出し者(ジョーカー)達の日常verソウサク 3-3話

バカげている。
先ほどよりも強く、頭をブンブンと振って意識にこびり付いた暗い妄想を引き剥がす。
怪談なんて現象は、現実には起こりえない。
さっきの万年筆も何かの間違いだ。
凍川達に見つかった焦りから軽い集団パニックとなって、それプラス何かの偶然も重なり、その結果あんな事象が起きた、それだけだ。
深夜の廊下を足早に歩きながら、先程の不可思議な現象に結論づけて、一つの教室の前で足を止める。
校舎へ侵入する為に、予め窓の鍵を開けておいた空き教室だ。
無言でカラリと扉を開ける。
普段から使われていない為か、こもったような空気がむわっと溢れた。
その空気を不快に思いつつも、七瀬愛梨は空き教室へ足を踏み入れる。

「しっかし、焦ったよなぁ~。いや、マジで」

気の抜けたような安堵の吐息を漏らす高槻晶の声に、苛ついた神経が逆撫でされる。
それをどうにか堪えて、七瀬愛梨は感情を押し殺した声で言った。

「……別に。失敗した、それだけでしょ? もう此処に用はないわ」

「ちっ、苛つくぜ」

吐き捨てるように、江藤敬吾が言う。

「……もう終わった事よ。さっさと帰るわよ」

苦々しい口調で応え、七瀬愛梨は窓辺へ近寄った。
そして、窓を開けようとして……手元が感じる硬い違和感に、眉をひそめた。

「? おかしいわね。開かない……?」

鍵を確認するも、窓に鍵は掛かっていない。
普段から使われていない古い教室だし、立て付けの問題か?
……いや、少なくともこの五日間はちゃんと開いていた。
だったら、何故……? どうして開かない?

つうっ、と冷たい汗が一筋、背中を伝った。
七瀬愛梨は己の疑念を誤魔化すように言う。

「こっちは立て付けが悪いのか、開かないわね」

「あっ? んな筈ねぇだろ。どっから入って来たと思ってんだよ」

江藤敬吾が呆れたようにガシガシと頭を掻いて、近づいて来た。
片手でどけと示され、無言で場所を明け渡す。
江藤敬吾は窓枠を掴み、ぐっと横へ引いた。
……開かない。
江藤敬吾は一瞬、きょとんとした後、顔が真っ赤になるほど力を込めて窓枠と格闘していた……が、ギシギシと小さく軋むような音がするだけで、やはり開かない。
その様子をしばらく見て、宮月美弥がほんの僅かに、不安そうな声を小さく出した。

「……閉じ込め、られた?」

ボソリ、と小さく呟かれたのに、火の消えたような静寂と暗い闇が支配する深夜の教室では、嫌に大きく響いた。
じっとりと闇に溶け込むかのような、不安の声。
その声を聞いて、江藤敬吾も窓枠との格闘を止め、神妙な表情を浮かべている。
――脳裏に浮かぶのは、先程の万年筆の一件。

「は、ははっ、宮月ちゃん、冗談キツイって」

動揺を押し隠そうとするかのように、やけに明るい口調で、高槻晶が引き攣った笑みを浮かべた。

「江藤、開かないんなら無理にその窓に拘る必要もないでしょ。入口はともかく、帰りはどこからでも出られるわ」

墨を落としたように暗く広がる胸中の不安を誤魔化すように早口で言って、七瀬愛梨は隣の窓へ手をやった。
……開かない。
流れ作業のように、次々と窓を確認していく。
その教室の窓は全て開かなかったので、教室を出て廊下の窓を早足に確認していく。
開かない、開かない、開かない、開かない、開かない。
その頃になると他の三人も軽いパニック状態に陥ったのか、必死な形相で確認していた。

「くそっ! んだよ、これ!? いっそ、叩き割るか!?」

江藤敬吾が興奮したように声を荒げて空き教室から椅子を持ち出し、窓へ叩きつけようと振り上げた。

「バカッ、止めなさい! そんな事したら警備員に見つかるわよ!」

七瀬愛梨も声を荒げて、江藤敬吾が振り上げた椅子を横から掴んだ。

「……ッ! だってこれ、おかしいだろッ!」

振り返った江藤敬吾の顔は軽い興奮状態にあるのか、目が血走っていた。
……普段は大きな身体と顔で威張り散らしてるくせに、肝っ玉の小さいやつ、と七瀬愛梨は胸の中で毒づく。

「さっき一瞬、かなり大きな地震があったでしょ? あれで、窓枠が歪んだのかもしれない。……結構、古い校舎だからね」

口にしながら「それはない」と頭で解っていても、他に適当な理由が思いつかず、思ってもない事を口走ってしまう。

「もう一度言うけど、出口は沢山あるわ。取りあえず、昇降口に行ってみましょう」

七瀬愛梨は、他の皆を落ち着かせるように努めて冷静な口調を装い、先頭に立って歩き出した。
……江藤敬吾も高槻晶も宮月美弥も、異常な体験をしたからか、神経が昂ぶり冷静さを失っている。
ここで自分までが冷静さを失えば、下手をすれば取り返しがつかなくなりそうで――七瀬愛梨は内から湧き上がる重苦しい不安を無理に抑え付け、黙って歩き始めた。

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