あるはみ出し者(ジョーカー)達の日常verソウサク 9-3話

「柚季っ」

 潜んでいた場所から立ち上がり、小声で柚季に声を掛ける。

「あっ、悠」

 柚季は俺の姿を認めると、にっこり微笑んだ。

「良かった! 急に一人になって、心細かったんだよ」

「そうか。まあ、俺も似たようなもんだ。ちょっと、パニクってた」

 言いながら階段を下りて、柚季に近付く。

「丁度良い。お前にも連絡を取ろうとしてたんだ。柚季、俺が葵に連絡するから、お前は燈花に連絡を取ってみてくれ」

 ポケットからスマホを取り出して画面を操作し……自分の表情が、クシャリと引き攣るのを自覚した。
 鏡がないから確認はできないが、きっと引き攣っているだろう。
 そう、確信できた。

「……? どうしたの?」

 不思議そうに小首を傾げて柚季が問い掛けてくる。

「圏外、だ」

 俺は苦々しく言った。
 ……圏外、だと?
 ありえねぇ。
 スマホが故障でもしたのか……?

「柚季のスマホはどうだ?」

「うん? ちょっと待ってて」

 言うなり柚季もスマホを取り出して、目を丸くした驚きの面持ちとなった。

「あれ……? 僕のも圏外だ」

 柚季のスマホも圏外、だと……?
 これは故障、じゃねえよな、きっと。
 俺達が気絶している間に、誰かが手間の掛かる壊し方をしたとも考えられなくはない、が……。
 嫌な予感が全身に重く纒わりついて、気が滅入りそうになる。
 せめて目の前の能天気なバカ面でも拝んで気を落ち着かせようとして――ふと、違和感を覚えた。
 柚季の浮かべる表情が、どことなく希薄に見えた。
 ――まるで硝子玉を埋め込んだような、無機質な瞳。
 いつもの柚季だったら感情丸出しの、それこそ逆ポーカーフェイスのような明け透けた表情なのに――今の表情は、霧が掛かったような、なんとも読み難いものだった。
 ……まるで。
 そう、まるで神城柚季じゃない「ナニカ」が、神城柚季を真似ているかのような……そんな、曖昧模糊とした違和感。
 ――不意に、七不思議の一つが脳裏を薄く過ぎる。

「仕方ねぇな……。それじゃ、行くか」

 俺は感じた違和感を誤魔化すように、ほんの少しだけ明るい口調で柚季に言った。

「うんっ」

 元気よく返事をして隣に並ぶ柚季。
 その仕草を見て、どうしてだか生理的な嫌悪が走った。

「それで、どうする?」

「? どうするって?」

 隣を歩く柚季に冗談めかして、しかし内心は恐ろしく冷ややかに問い掛ける。

「だから、一度外に出るか、葵と燈花を探すか……どうする?」

「え? 外に出るんじゃないの? 葵達なら自力でなんとかするでしょ?」

 きょとん、とした仕草で首を傾げる柚季を見て――俺は今度こそ違和感を確信し、ざっと飛び退いた。

「お前……一体、誰だ?」

 俺は目の前の柚季の顔をしたモノから距離を取って、詰問口調で問い掛けた。

「? 僕は、神城柚季だよ?」

 柚季の顔をしたモノが、困惑気味に瞳を揺らした。

「違う。お前は、神城柚季じゃない」

 ドロリ、と。
 ほんの一瞬、ソイツの顔の輪郭が崩れた気がした。
 まるで、顔面の肉が溶け崩れて……それが一瞬で、ビデオの逆再生でもして戻ったかのような。
 目の錯覚を疑うような、有り得ない現象。
 だが、心臓の鼓動が爆発しそうなほど高鳴って――夢じゃないと、嫌でも認識させられた。
 俺の顔が、恐怖で歪む。
 知らずに一歩後ずさろうとして、足が竦んでいるのに気が付いた。
 ――ごくりっ、と。
 口に溜まった生唾を嚥下する音が、頭の中で嫌に大きく響いた。
 時が止まったような静寂と緊張が漂う中、柚季の顔をしたソイツは変わらぬ笑みで一言だけ、口にした。

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