あるはみ出し者(ジョーカー)達の日常verソウサク 10話

「…………このぉっッ!」

 もう、数十度目かの突進を試みて……僕こと神城柚季は、引き摺り込まれた鏡の外へ出ようと、鏡面に向かって体当たりを繰り返していた。
 跳ね返される痛みと反動を半ば覚悟して――しかし、なんの抵抗もなくズルリ、と鏡面世界から飛び出した事実に、目を見開いて驚愕した。
 そのまま勢い余って階段を転げ落ち、顔面からモロに階下の廊下へ激突した。
 受け身が間に合わず、ゴヂンッと重々しい衝撃音が、頭の中で鳴り響く。

「……ッ、痛ぅ。痛ったぁぁぁっッ!?」

 チカチカと目の前を無数の火花が舞い散り、堪らずゴロゴロ転げまわって激痛にのたうち回るッ。
 しばらく激突の痛みに悶絶した後、どうにか立ち上がって周囲を見回した。

「そうだッ! あの偽者野郎ッ!」

 ギリリッ、と怒りと恐怖と悔しさに歯を食いしばる。
 あの偽者野郎が、好き勝手動く前に、皆と合流しないとッ!
 僕は焦燥に駆られたまま、皆の名前を叫びながら深夜の廊下を駆け出した。

 …………事の起こりは、十分前。
 僕が意識を取り戻すと、なぜだか北校舎一階と二階の間の、踊り場の大鏡の前に倒れていた。
 鏡のある踊り場は此処だけだから、位置の把握は簡単だったけど……現状が全く掴めずに、混乱していた。
 周囲を見回すも誰も居なかったので、何はともあれ、まずは皆に合流しようとスマホを取り出し、圏外だったのを確認した瞬間――突然、横合いから凄まじい力で鏡の中へ引き摺り込まれた。
 鏡からはみ出した、僕の姿形をした、僕の偽者に。
 僕の偽者は、僕を鏡に引き摺り込むと鏡から飛び出して、悠々と歩き去って行った。
 ……あぁ、これが『鏡の怪談』かぁ。
 呪いもあったし別におかしくはないかな、と妙に冷静な思考で納得するも、偽物が何を考えているか解らず、僕の姿を利用して皆に危害を加えてしまうかもしれない――それに気付くと堪らなく怖くなり、引き摺り込まれた鏡の中からどうにか外に出ようと、体当たりを繰り返していたのである。

 僕が外に出られたって事は、鏡の怪談の通り、誰かが「偽物」と看破してくれたのかな? 多分、葵か燈花か悠だよね?
 ……あれ?
 なんだ、コレ?
 ちょっと嬉しいんですけど!
 くふふっ、と頬を緩ませて……しかし、他の皆が僕の体験したような怪現象に遭遇していないか、とても不安になった。
 ――それに思い至り。
 僕は皆の名前を呼ぶ声を一旦止めて、一つの教室の前で駆けていた足を止めた。
 警備員の怠慢か、幸いにして鍵は掛かっていなかった。
 窓すら割って入る覚悟だったので、ほっと安堵して僕はそのまま教室に入り、手近な椅子を一つ拝借した。

「ちょっと借りますね、っと」

 小さく呟き、椅子を抱えたまま、全速力で先程の踊り場の大鏡の前へ戻る。

「この鏡、危険だよね……? 葵達が此処を通って怪談に遭わないとも限らないし、後顧の憂いはスッパリ絶っておこう!」

 僕は椅子を大上段に振り上げて、力一杯、踊り場の大鏡へ叩きつけた。

 ガァッシャーーーーーンッ! と硬質な高音が鳴り響いて、パラパラと鏡の破片が舞い散る。
 窓から差し込む冴え冴えとした月の光に反射して、無数に散った破片がキラキラ輝いていた。
 そんなちょっと神秘的な光景に、ほんの少しだけ見蕩れる。
 ……が、直ぐにそんな場合じゃないと我に返り、誰かが鏡の破片を踏まないよう、簡単に隅へ破片を纏めた。
 そのまま椅子を元の教室に返して、今度こそ僕は皆を探そうと駆け出した。

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